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社長外遊記 (1963)監督・松林宗恵


開始より0:10(東京都中央区銀座5丁目・数寄屋橋阪急デパート)

「Hello! あー、風間さんおるけ? 社長の分の風間さんおるけ?」
「あ、社長さんですか? ちょっとお待ち下さいませ」
「Oh,Yeah」
「あのー、どなたさんですか?」
「Oh! あのー、僕はの、沖津とおっしゃいましての、昨日ホノルルからいらっしゃいましたの」
「ホノルルってハワイのですか?」
「Oh,Yeah・・・ホノルルいうたらハワイに決まっとるけんの」

愛妻と五人の娘を持つ風間圭之助(森繁久彌)が社長を務める丸急デパートへ。社長が乗った車がデパートに横付けされる。
すると以前、風間家に世話になっていたことがあり、現在はハワイに住んでいるというジョージ沖津(フランキー堺)という人物が訪ねてくる。

社長シリーズでのロケ撮影というと、いわゆるご当地場面では観光名所がこれでもかとばかりにが登場するが、本社のある東京でのロケシーンは意外と少ないかもしれない。社長室などの社内、社長宅の室内、クラブや料亭などの接待店など、ほとんどが撮影所のセットで撮影されている。しかしいつも決まって東京でロケされるのは、たいがい作品の冒頭に出てくる社長宅の外観、それとお迎えの車で出社する会社社屋の外観だ。
本作品での森繁社長はデパートの社長ということなので、このシーンのロケには実際のデパート、銀座にあった「数寄屋橋阪急デパート」が使われている。



(撮影・2007・12・30)

(写真上)作品画面の右手前に写っているのが映画では「丸急デパート」として撮影された「数寄屋橋阪急デパート」。高速道路の向こうに日劇や朝日新聞社が見えている。
(写真下)日劇と朝日新聞社、それと丸の内ピカデリーは現在では「有楽町センタービル」(通称「有楽町マリオン」)に建てかわっている。写真撮影時(2007年)、「数寄屋橋阪急デパート」であったビルは「モザイク銀座阪急」というテナント形式の商業施設になっている。改装されてはいるものの、ビルの基本は変わっていない。
(2007年記)

さてその後、2013年にこのビルは解体されるのだが、ここで簡単にこのビルの経緯について調べてみた。
東芝の前身である東京電気によって建設されたこのビルは1934年に竣工している。昭和9年、戦前だ。当初は「マツダビルディング」と称され、近代的なビルとして人々を驚かせた。その後「銀座東芝ビル」へ名称を変更。
「数寄屋橋阪急デパート」は1956年に入居している。2007年に東急不動産が同地を取得、ビルの名称は「銀座TSビル」に。解体が決まりテナントが退店する2012年まで、56年間にわたり阪急グループ系モールとして営業を続けてきたことになる。



↑ (写真左)社長出社の直前、「丸急デパート」の全景が映し出される。
この画像ではよく見えないが、建物にはMARUKYUの文字やマーク入っていて、これは合成によるものだ。
(写真右)実際の「数寄屋橋阪急デパート」。社長が車で出社するシーンのロケで使われた。ということが分かったので、当然、写真左の建物全景も「数寄屋橋阪急デパート」だと思った。




↑ ところが不思議なことに、デパート全景のこのビルは全くの別物。これは当時の「日本NCRビル」(現日本財団本部ビル・港区赤坂一丁目)なのだ。両者とも角地に立っているビルで形も似ている。なぜこんなややこしいことを。




↑ そしてこの春(2016年3月)、数寄屋橋阪急デパートの跡地に新たなビルが竣工する。名称は「東急プラザ銀座」と決まったようだ。
うおお、こんな形か!まあマツダビルディング竣工からは82年ぶりの新築だからなあ・・。
(2016・01・22記)

(協力・メタBOの若大将さん・東京「あの場所は?」秘宝館さん)






開始より1:06(135 S. Hotel St. Honolulu, HI)

「あ、ほてからの、今朝、風間さんから電報きよっての、風間さんと大島さんと、ほてからに珍田さん三人での、Pan Americanで明日ホノルル来る言うてきよったよ」
「え? 三人来ますか」
「Yeah」
「何も三人一緒に揃って来なくたっていいのになあ」
「何を言うとるの、三人ともあんたのBossじゃないの。Meはの、三人の為いろいろスケジュール立てるに、あちこちせにゃならんの、忙しいのよ。感謝しろよ、おまえ、ちとばか」

ジョージ沖津との縁からハワイ進出を検討する丸急デパート。現地調査のため、秘書課長の中村(小林桂樹)がホノルルに赴任する。
中村は現地の事情に詳しい日系三世、沖津が経営する雑貨店で仕事をしながら現地の様子を調べる。

↓ 車でジョージ沖津の店についた中村。ジョージ沖津の雑貨店の看板には「Russell's」と書かれてある。これは実在した店なのだろうか。現在はどうなっているのだろう。



(撮影・ミシェンヌさん・2013・07)

これまでいくつもの作品でロケ地特定に協力していただいたミシェンヌさんがこの雑貨店を探してくださった。
以下はホノルルを訪れたミシェンヌさんからの現地報告。

『社長外遊記』に出て来るジョージ沖津(フランキー堺)の店の場所がわかりました。
フランキーの店は当時現存していた『Russell's』という店がロケ(店の外見)ショットに使われています。
当時の電話帳で『Russell's』を調べると3店舗程ありましたが、ホノルルのワイキキ近辺ではこのHotel St.と Bishop St.が交差する店のみでした。 映画の中のRussell's のサインと同じく 電話帳の所にも『Men's Clothing, Sportswear, Naval Tailors』 とありました。
決め手になったのは、映画(続・社長外遊記)の中で、はす向かいに 『Long's Drug Store』が写っているのが見えて実際、現在のHotel St.と Bishop St.には 『Long's Drug Store』が有った位置に大きなビルが建っており、角っこではありませんが、一階に面している所に 『Long's Drug Store』が未だにありました」


現在はこの建物、「Russell's」ではなく、全然違う店が入っているそうだ。しかし写真を見ると建物は建て替えられずにそのまま残っている。
現在ではここが「Russell’s」でないのなら、当時の電話帳で調べでもしなければ分からないだろう。ミシェンヌさんがホノルルに着いて最初にやったことは、なんと現在の電話帳ではなく、当時の電話帳を見に図書館に行くことだったそう。本当に素晴らしい!このロケ地探しの熱意に頭が下がります。ご協力ありがとうございました。



↑ 「続社長外遊記」より。
最初に「Russell’s」が写されたショットからは180度、逆方向からのショット。 道路を挟んで「Long's Drugs」という店が見える。



↑ 現在は建て替えられたビル内に『Long's Drugs』がある。
(協力・撮影・ミシェンヌさん)



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続 社長外遊記 (1963)監督・松林宗恵


開始より0:01(Ala Wai Blvd. Honolulu, HI)

現地視察のためハワイを訪れた風間社長(森繁久彌)、大島常務(加東大介)、珍田第一営業部長(三木のり平)の三人を、中村秘書課長(小林桂樹)の運転で「丸急デパートホノルル支店建設候補地」へと案内するシーンからこの続編は始まる。



(撮影・2015・11・08)




(撮影・2015・11・08)

風間社長たち三人は「Hilton Hawaiian Village」というホテルに宿泊している。このシーンはホテルから候補地へ向かう途中という設定だが、通る道はまんざら間違ってもいない。(このページ最下段の地図参照)
遠くにダイアモンドヘッドが見える。




開始より0:02(Kapiolani Blvd. Honolulu, HI・First Hawaiian Bank Kapiolani Branch/ATM)

「おい、珍田くん、君はどう思うかね」
「私はもう社長と常務さえよければですね、私に異議はございません。一日も早くこの我が丸急デパートのハワイ支店をですね、ここに建てていただいて、現地採用の美人女店員をば私が150名ばかりパーっと養成いたしまして、それで開店記念には日米合同の一大水着グラマーコンクールを開きましてですな、私がこの列に並んで・・・」
「おい、珍田くん、もういい」

候補地に到着し、立地条件を検討する一行。
遠景の正面に「円盤型の何か」がのっているビルが見える。これは回転レストランで「ラ・ロンド」という店。アメリカ合衆国中でも最初の回転レストランだそうで、1961年オープンしている。これがこのロケ地特定の手がかりになった。
このロケ地については、随分以前に麻布田能久さんからご報告をいただいていたのだが、ようやくの紹介になる。
前作「社長外遊記」でもジョージ沖津が空港に着いたばかりの三人を候補地に案内するが、それはこことは違う場所だ。



(撮影・2015・11・09)

↑ この「丸急デパートホノルル支店建設候補地」、当時は更地だったが、現在は「Firest Hawaiian Bank」が建っている。当時撮影されたのと同じ位置でカメラを構えるとこんな具合になってしまう。

↓ そこで撮影位置を少し移動してみる。おお、見えた見えた。回転レストラン「ラ・ロンド」。このビルは上部の回転レストラン部分も含めて当時のまま残っている。しかし残念なことにレストランは営業していない。


(撮影・2015・11・09)



↑ 風間社長と日本料理店「桜亭」のマダム紀代子(新珠三千代)が「ラ・ロンド」で食事をするシーンがある。
しかしこのシーンはセットでの撮影のようで、夜景の背景を人力で動かしていると思える。回転速度がやや安定していないうえ、カットによって速さが違うなどする。難しい撮影だろうと思う。
東京ではホテル・ニューオータニや交通会館に古くから回転レストランがあるが、回転レストランは当時の流行だったようだ。

↓ 営業していた時代の「ラ・ロンド」店内とパンフレット。



「ハワイに行く度に思うのですが、紀代子(新珠三千代)が 森繁と結婚の話をして森繁を振る回転レストランが、今は営業していない事ですよね。 あそこであのシーンの様に夕食でも取りたいといつも思っちゃいます。
それこそ全盛期は、有名人が沢山訪れた様なレストランだったみたいですが、それを考えると一体いま、あのレストランの中がどんな状態なのか(当時のままの家具とかあるのか?)とか気になってしまってしょうがないです」

(ミシェンヌさん)

(協力・麻布田能久さん・ミシェンヌさん)




開始より0:03(135 S. Hotel St. Honolulu, HI)

候補地の下見を終え、ジョージ沖津の店に着いた一行。正編にも登場した『Russell's』の前だ。



(撮影・ミシェンヌさん・2013・07)




開始より0:40(Kalakaua Ave. Honolulu, HI)

仕事の上では立派な社長なのだが、プライベートでは少々女性好きが過ぎるというのがこのシリーズの特徴というかテーマそのもの。今回もホノルルの料亭「桜亭」のママ、紀代子(新珠三千代)と少々羽目を外す。作品画面の中央でボードに腹ばいになっているのが風間社長。



(撮影・2007・12・30)







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