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兄貴の恋人 (1968)監督・森谷司郎


開始より0:04(東京都杉並区阿佐谷南3丁目・JR阿佐ヶ谷駅南口駅前)

本作品「兄貴の恋人」で、阿佐ケ谷(あさがや)駅が出てくることは分かっていたのだが、隣駅の荻窪に住む私にとって阿佐ヶ谷駅なぞつい目と鼻の先、いつでも行けると思っていて、同じカメラ位置からの撮影に出かけるのは、かえって後回しになってしまっていた。
陽気もいいし、散歩がてら行ってきた。阿佐ヶ谷駅なら歩いて20分くらいで着いてしまう。

ある朝、丸の内の商事会社に勤める鉄平(加山雄三)は妹の節子(内藤洋子)と共に自宅から出勤する。




(撮影・2015・05・25)

↑ ロケ地を探すまでもなく、「阿佐ヶ谷駅」と看板が出ている。南口の駅前だ。この駅から加山、内藤が電車に乗るということのようだが、駅前の風景だけで加山、内藤は出てこない。
ちなみに「阿佐ヶ谷」というのはJRの駅名で、地名では「阿佐谷」と書く。

現在では線路下にある駅舎から、南北ともに張り出すようにして商業スペースが増築され、食品、飲食などの店舗が入居している。当時と同じであろう位置から撮影すると、こんな感じになる。矢印の太い柱は、現在は四角く巻かれているが、当時の円柱形のものと同一だと思う(矢印)。




現在のJR阿佐ケ谷駅南口。スターバックスが荻窪より先にできたのは悔しかった。




開始より0:04(東京都杉並区阿佐谷南3丁目・JR阿佐ヶ谷駅3、4番線ホーム)

駅前のシーンから続いて、電車に乗り込むのをイメージしたプラットホームでのシーンに切り替わる。
ここでも加山、内藤が出てくるというわけではない。
全面オレンジ色の103系電車がホームに入って、すでに停車している。ここも映画での設定通り、阿佐ヶ谷駅上り快速中央線が停車する4番線ホームで間違いない。



(撮影・2015・05・26)

この場面、かなりの超望遠レンズで撮影されているようだ。いったいホームや電車のどのあたりが写っているのかを現地で考えてみた。10両編成の電車の先頭車両、最後尾車両が写っていないので、何両目の部分が写っているのかが分からない。電車の連結部分を見ると、進行方向に向かって、わずかに右にカーブしていることが分かる。中央線は東は東中野から西は立川まで、定規で引いたように一直線なのだが、ホームに入る部分で膨らむのでわずかにカーブができる。この阿佐ヶ谷駅4番線を実際に端から端まで歩いてみると、カーブになっているのは、上り東京方向で進行方向寄りの東端だけということが分かった。このような構図で撮影するにはカメラはホームの東端に据えられたのだろう。混雑する通勤時間の撮影で、邪魔にならないようにと考えるとなるほどだ。

その位置に立ってみるとホームの屋根を支えている柱の見え方が見事にぴったり。阿佐ケ谷駅、駅舎を増築して店舗ができたり、ホームへのエスカレター、エレバーターができたりの変化はあるが、プラットホームは当時のまま残っているようだ。電車の停止位置も当時と変わっていない。画面に写っている一番手前の車両は前面が写ってないが先頭車だということが分かった。
車両の連結部分や車体上部のドア開閉確認の赤いランプの位置が一致している。鉄道マニアではないのだが、これには感動。



↑ 作品画面が撮影されたカメラ位置と同じホーム東端から撮影したもの。これでも標準的な画角より、やや望遠だ。
233系がホームに入っている。こうやって見ると先頭車両の前面が見える。白い枠内が作品場面だ。いかに超望遠で撮影されたかが分かる。人物の大きさなど、ピタリ合う。今の阿佐ヶ谷駅に50年近く昔の人達だ。

ちなみにこの現在写真に写っている電車を運転しているのは女性運転手だった。かっこいい。子供の頃から電車の運転手になるのが夢だったのだろうか。と妄想を逞しくしてみる。お父様が鉄道マンでそれに憧れて。そうかもしれない。では「兄貴の恋人」が撮影された1968年当時は? お父様もまだ子供だったはずだ。では当時はもしかしたらお祖父様が国鉄マン? そうでないとは言い切れないだろう。お祖父様が運転する中央線電車が阿佐ケ谷駅で停まった、その全く同じ位置に、お孫さんが10両の最新車両を率いて、ピタリ停まる。感動を禁じ得ない。妄想だが。




開始より0:04(東京都杉並区阿佐谷南3丁目)



(撮影・2015・05・25)

↑ 阿佐ケ谷駅を出発した東京行き上り快速電車。次の停車駅は高円寺。当時は「Next station is Koenji」などと英語のアナウンスは無く、車掌の肉声だった。(もちろん日本語のみ) ホームでドアが閉まる合図もメロディではなくベル。
線路の北側に見えるたくさんの樹木は変わらない。矢印の高架線柱は同一のもの。
カメラ位置はもう少し線路から離れた位置から望遠だと思うが、現在ではこれが精一杯。


↓ 阿佐ケ谷駅を出発後、丸の内へ出勤する鉄平を追って、中央線が通過する地域の各所を順にカメラが追う。
ここで気がつくのが、阿佐ケ谷駅ホームのシーンから始まって、東京駅到着(東京駅到着シーンは無いが)まで、徹底して電車が左から右(西から東へ)へ走っているということ。これは方向を混乱させないと同時に、西方にある住宅地、阿佐谷から、東方の都心までの方向感覚を表現しているのだと思う。


↑ 阿佐ヶ谷駅を発車し、隣駅の高円寺駅に到着直前(以下矢印は進行方向)


↑ 大久保通りを跨ぐガード上を通過(すぐ右が大久保駅)。次は新宿駅だ。


↑ 新宿駅中央線上り快速ホーム。


↑ 新宿駅を発車し、代々木駅南側を走行。




開始より1:18(神奈川県川崎市川崎区田辺新田)



この後、節子(内藤洋子)は川崎駅から工場地帯を歩いて、文字通り「兄貴の恋人」である和子(酒井和歌子)に会い向かうシーンがある。
その中で節子の背景に三本の煙突が写っているカットがある(写真左側)。黒澤明監督作品「天国と地獄」の中にもこれとほぼ同じ場所で撮られたと思われるシーンが登場する(写真右側)。捜査する刑事の後ろに同じ煙突が見えている。
この二つの作品で現れるロケ地の特定については、「東宝映画のロケ地を訪ねる・天国と地獄」(開始から1:15)をごらんください。

(協力・Gさん)



 巡礼メモ 1

「ハワイの若大将」(1963)より羽田からホノルルへ 「ハワイの若大将」(1963)よりホノルルから羽田へ
「社長外遊記」(1963)より羽田からホノルルへ 「続・社長外遊記」(1963)よりホノルルから羽田へ

↑ 阿佐谷から都心への方向感覚のことで思い当たったのが、海外ロケ(特にハワイ、アメリカ本土の場合)のある作品で、出演者が飛行機に乗ると、その飛行機が飛んでいる様子の映像がよく出てくる。その飛んでいる方向のこと。
日本からハワイ、アメリカへ行く場合、左から右(西から東)、逆に日本に帰る場合は右から左(東から西)のことが多い気がする。もちろん例外もあろうが。
例をあげると「ハワイの若大将」で羽田からホノルルに向かう飛行機は左から右に向かって飛んでいる。逆にホノルルから羽田に帰る時は右から左に飛んでいる。同じ作品の中で使い分けているのだから、これは意図されていることに間違いないと思う。「社長外遊記」と「続社長外遊記」は分割された一本の映画とみなすことが出来る。その中でも方向が使い分けられている。

そのことを書こうと思って、「ハワイの若大将」「社長外遊記(正・続)」の飛行シーンを探して比べてみたら、これは同じ画面の使い回しだということを発見した。ホノルル行きでは昼夜の違いがあるものの、おそらく同じときに撮影されたものだろう。羽田へ帰るシーンではまったく同じ映像だ。探せば他の作品でも登場するかもしれない。
空港で飛行機が離着陸する実写シーンの方向はまた別の話。撮影位置は限られているし、風向きで離着陸する方向は変わるので、そう簡単に右へ、左へと希望通りにはいかないと思う。



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