オートモデリング 1989年12月号
LS 1/32 マツダT-2000オート三輪車


ノスタルジックカー分野で乗りに乗っているLSからオート三輪が発売された。
今回はそれを大工さんが使用していると想定して、住宅の建築現場の情景にしてみた。
使用したフィギュア、小物は行きつけの模型店の井上氏に協力をお願いし、ストーリーのある情景作りに大変助けられた。

「風景」
マツダT-2000オート三輪車
LS 1/32

 エルエスの1/32シリーズは、ついつい情景にしてみたくなる衝動にかられる魅力を持っている。軽だったら全長10センチにも満たないかわいらしさで、それだけでチョコンと飾っておいても良いものだが、シリーズ中のどのキットも昭和30〜40年代の車なので、できあがったモデルを眺めていると、まわりにその時代を作ってみたくなる。1/35のフィギュアを流用できるというのも情景にしたくなる大きな理由だろう。
 さて今回は、なつかし商用車のキワメツケ、オート三輪だ。

 マツダのT2000は最後のオート三輪だ。戦後、昭和20〜30年代を中心に全盛をきわめたオート三輪もその後、経済的に豊かになるにつれ、しだいに四輪にとってかわられるが、(三輪であるいちばん大きな理由は一輪少ない分のコストダウンだ)このマツダ製は40年代に入ってもまだまだがんばって生産された。だから実際にオート三輪が活躍していたころを知っている方々には、いちばん鮮やかに記憶に残っているオート三輪だろう。
 実車にはT1500という低床式ショートボディのシリーズもあって、主な用途としては一般商店の輸送用、特に生鮮食品関係に多く使われていたので、どちらかといえばこちらのほうがなじみ深く、多く目にしたような気がするが、このエルエスのニューキットは堂々たるロングボディの最終型T2000である。こちらの用途は土木、建築関係が多かったようなので、作例では工務店の車として材木などを荷台に積み、建築現場の情景を作ってみた。



 ではキットから見てみよう。まずパッケージに目をやってみる。白のバックにT2000を真正面、ななめ上からとらたアングルが新鮮だ。これぞマツダのオート三輪というボディカラーのブルーグレーがとてもよく再現されている。シリーズ中ビカイチのボックスアートだ。
 次にキャビン部分のパーツを手にして眺めてみる。とても良い形だ。左右から大きくしぼりこんだフロント部分の先端に、ややより目がちにヘッドライトがつく。そうそうこんな顔つきだった。ほんのちよっとしたディテールにも、たとえば左右の足もとにあるペンチレーターのふたの形状であるとか、ホーンのスリットであるとかにも、当時は気にもとめなかったはずなのに、不思議なほど鮮明に記憶がよみがえってくる。
 そんな事を考えながらT2000の顔を見ていたら、はたと思いつく事があった。このオート三輪もそうだし、エルエスのこのシリーズでも発売になっている軽三輪のK360、軽商用車のR360クーペ、それから初代のRX-7、みんな顔つきが似ている。大きなアールを描くフロントエンドに低くおちたボンネット、アクセントになっている二つのライト。そう、みんなカエル顔なのだ。なかなかデザインポリシーがつらのかれているではないかと感心してしまった。ひょっとしたらこの伝統はユーノス・ロードスターにまで受け継がれているのかもしれない。(あれはカエル顔というよりウーパールーパー顔かな?)
 閑話休題。製作記事に入らなければならないが、とりたてて説明するような事もなく困ってしまった。そこで今回は情景に使う「樹木」に的をしぽって考えてみる事にした。


 車の情景もそうだし、AFV関係のディオラマでも樹木は難題で、なかなか生きた木の感しが表現されにくく、どなたも苦心されているようだ。ハリガネなとで作った幹や枝に、スポンジ系の素材やカラーパウダーなとで葉を作るのが一般的だが、良い感しを出すのは大変むずかしい。それ1/35~1/24くらいのサイズになると、広葉樹なら1枚1枚の葉を再現したくなってくる。しかしそう言っても実際の樹木を見てみると、「葉」という平べったいものが、ある程度の方向性を特って、しかも向こう側がやや透けて見えるくらいの適度な密度で一点で枝についているという、きわめて再現の難しいものなのである。これを実現するには、生きている植物を素材にして、なんとかそのままの形を保たせるのがてっとり早いのではないかと考えた。
 最初に試した方法は、成功すれば大発明ものなのだが、生きている種物が水分を吸いあげる力を利用して水溶性の樹脂を吸わせ、植物の組織に行きわたらせることにより、内側から固着してしまおうというものだ。
 これはまずパセリを使って実験してみた。木工用ホンドが5%くらいの水溶液でパセリを2〜3日栽培し、ひきあげた後、乾燦させたが、しなしなになってしまい失敗たった。しかしそのパセリは一応捨てずに今でも撮ってあるが、全く効果がなかったわけでもなく、生き生きした姿は保てなかったものの、半年以上たった現在も色と形が少し残っており、さわるとやや弾力もあり、バリバリにくずれるような事はない。この方法はさらに工夫を重ねれば可能性があるかもしれない。
 本物の植物で作る方法は、他にドライフラワーやライケンを使う手もあるが、生きている植物をなんとかそのままの姿で固めてしまいたい僕は、その夢を捨てきれず、今度は生きている植物の外側から接着剤やら塗料を塗って、むりやり固めてしまうという強硬な手段にでた。
 まず園芸店でミニ盆栽用の木の中からなるべく葉の細かいものを選んできた。次に20%くらいの木工用ボンドの水溶液を作り、はじかないように中性洗剤を少量加える。その中に木をまんべんなくつけ、ひきあげた後つるして乾かせば全体に接着剤がコーティングされる。それだけでも葉が固着すると思うが、念のため着色を兼ねて塗料を厚めに吹き付けてある。その後、幹や枝の部分を筆塗りで仕上げたのが、今回の情景にある樹木だ。製作から2ヶ月たつが、今のところ変化はない。
 おっと、樹木のことでつい夢中になってしまって、そろそろまとめなければならないところに来てしまったが、僕は本物を使った樹木がベストだと言っているのではなく、ひとつの方法として可能性があるのではないかと思っているだけで、まして作例の樹木が「ほら、すごいでしょう」などと言いたいのでは絶対なく、むしろこれは葉がカールしてしまったりしたので失敗例として見てほしい。それとこの本物を使う方法は、このサイズとしては葉が大きすぎる事も知っておかなければいけない。
 あ、それと言うまでもない事だけど、もし以上なような方法で樹木を作ろうとした場合、無駄に植物をいじめないようにお願いしておきたい。


 さて、あれこれ思いなやんで情景は完成したものの、何かいまひとつピンとくるものがなかった。オート三輪があって作りかけの家があって、ふちどりの大げさな台まてついて、「いったいそれでどうしたの」というしらじらしい雰囲気そこはかとなくただよっているのだ。情景というものは、切り取られた空間の中ですべてを説明してしまうか、またはその空間の外側を見る人にイメージさせるかどちらかだと思う。それが中途半端だったのではないだろうか。
 そんな情況を見かねてか、友人が素晴しいフィギュア3体と小物を手伝ってくれた。設定は説明しなくてもわかっていただけるだろう。この表情をとくとこ覧いただきたい。
 フィギュアが情景を生き生きとさせてくれるのは想像以上のものがあり、この3体のフィギュアを配置したときの変わりようにはおどろいてしまった。I君には誌面をお借りして感謝したい。
情景作りがおっくうな読者の方も、気に入った車のかたわらに、民間人に変身させた兵隊さんを一人置いてみるだけでもいい。きっとフィギュアの特つ廣力を感しとってもらえるにちがいない。

 今回の情景、いかがだったでしよう。つい私たちは、たとえは車だったら、カッコイイもの、めったにおめにかかれない高級車なとに目をうばわれがちである。しかし商用車、大衆車となると、あまりにもありふれているがゆえにか、忘れがちであり、一時代を築いたそれらの車たちが、そのまま記檍から失われてしまうのは、僕には何かとても心残りな気がするのである。
 そんな車たちはエルエスが製品化しなければ、多分再び立体化されることは永久にないのではないかと思うと、このシリーズは何かとても重要な事をやっているのではないかとさえ思えてくる。そし てそれらの小さなモテルを眺めながら、当時の風俗や生活を思い浮べ、それらの車がとんな活躍をし、またその車を作ったメーカーが現在ではとんな車を作り、どんな共点や発展があったか、などに 考えをめぐらすのは、ほんとに楽しい事なのである。



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