オートモデリング 1989年5月号
LS 1/32 ホンダT360


なつかし系の情景としては前作の雑貨店とともに一番気に入っているのがこの自動車修理屋だ。ただ、この情景の見せ場が建物内部に集中してしまっているので、よく見えないのが残念だ。しかしそのよく見えないところがまた良いのかもしれない。
この情景も前作同様、写真、カラーコピーを多用している。
いつも、だいたい2ヶ月くらいの製作期間をもらっていたと思うが、この時の製作が一番ハードだったように覚えている。締め切り間際は仕事が終わって家に帰ってから朝方まで作り、3〜4時間しか寝ない生活を何日か続けていたらセキが止まらなくなり、医者に行ったら「肺炎になりかけです」と言われた。(笑)
編集部には前作にひきつづき、この情景を郊外まで持っていってもらって、自然光で素晴らしい写真を撮っていただいた。

「風景」
2台のホンダ車とそのころ
LS 1/32
ホンダT360
DOHCを積んだ軽トラック

 昭和37年10月、第9回東京モーターショーに、二輸専門メーカーであったホンダから、3台の試作四輪車が出品され、華々しくライトをあびていた。
 そのうちの2台はフルオープン2シーターのライトスポーツで、リアトランクリッドにはそれそれ「S360」「S500」の文字が光っている。そしてもう1台は、一見平凡な形をした軽トラック「T360」であつた。
 そして驚くべき事に、これら3台のクルマにはいずれも、水冷直列4気筒の、四輪では日本で初のDOHCユニットがおさめられていたのである。軽商用トラックにもである。
「S360」の発亮は実現しなかったものの、残る2台の「S500」「T360」は翌年発亮された。  S500はいうまでもなく、その後S600、S800に発展するべ一スになった名車で、これらSシリーズについては、オートモデリングVol.2、および4をはじめ、今なお語られる事が多いので、DOHCのみにとどまらない数々の技術に支えられた高性能ぶりと、多くのエピソードはそちらにまかせるとして、T360も軽ながら、30ps、8500rpmの出力と、最高速度100km/hという数字は、当時の軽自動箪の平均的な性能がそれそれ、20ps、5000rpm、70km/h前後という事を考えると、これもまた大変な高牲能ぶりである。
 今日でこそDOHCは高性能エンジンとして一般的なものとなっているが、ホンダが昭和38年に、この2台のクルマにDOHCを採用した事がいかに先進的な技術だったかは、たとえぱトヨタが2000GTで、ニッサンがスカイラインGTRで初めてそれを搭載するのが、4〜5年もあとの事だったのをみてもわかる。
 華やかなSシリースの陰にか<れがちであるが、T360の成功も忘れてはならない。荷室部分のバリエーションも増え、その後、排気量をアップしたT500シソーズも誕生している。(変わったところでは、積雪地帯用に、前輪にソリを装着し、後輪はキャタピラというタイプもあったようだ)
 「T360」と車名だけ聞いてもピンとこない方でも、現在30才以上くらいの方なら写真を見れば「ああ、このクルマか」と思い出されるにちがいない。ボンネットにホンダの頭文字「H」を大きくプレスした商用車が街中を走りまわっていたものだ。
 スポーツマンタイプの兄を持った、めだたないいが力持ちで働き者の弟がこのT360のような気がするし、実際、今日のホンダが四輸メーカーとして、国内第三位を競うまでに発展する基礎を作る働きをしたのも、このT360なのである。



そのT360が1/32になって再び姿を現わした

 さて、今回はエルエスからT360が発亮されたのを機会に、もう1台、初期のホンダを代表してS600にも登場してもらい、自動車修理工場の情景を作ってみた。
 全体としては、今回の修理工場を、以前作ってあった駐車場と雑貨店の2つの情景ではさみこむ形にした。3つ合わさると横幅が約1mにもなり、それなりの迫力はあるのだが、僕個人としては、あまり面積のある、ぎょうぎょうしい情景より、ちょっとした小道具やフィギュアで、生き生きと見せる必要最小限の情景が好きなのだが、前々回からの続きという事もあり、妙に大きいぱかりで、主題のはっきりしない情景になってしまったと反省している。
 そこでこの事態を少しでも救うためにも2体のフィギュアに登場してもらった。工場主と、その息子である。
 設定としては……
オヤジ::「遊んでばかりいてしようのないやつだ。エスロクを買ってやったら、商売の手伝いをすると約束したじゃないか」
ムスコ:「ワルイ、ワルイ、今日だけ遊ぴに行かしてくれよ。明日からちゃんと仕事するからさ」
といったところである。
 人形作りは苦手なので、極力、改造範囲を最小限にして、なるべくそのまま流用できる部分を1/35のフィギュアから寄せ集めてある。
 工場の小道具類も、1/35は充分に許容範囲で、モノによっては1/24でも使えそうなものは使った。流用できるものがなくてもどうしてもほしいものだけスクラッチした。(たとえぱ、ハンガーにつるしたツナギや、天井の蛍光灯など)


 では新製品のT360についてみてみようと思うが、僕の手にしたのは、もっとも始めの段階のテストショットだったので、細かいコメントは避けるが、大変良いキットに仕上がる事が容易に想像できた。
 ボディ前部が別パーツになっているが、フロントグリルから上は、実写の開閉ラインで分割されているので、合わせ目を消してしまわないように注意しよう。
 ボティカラーは、360タイプに限ってはライトブルー1種のみである。室内はシート、ドア内張りをダークアースで塗り、それ以外の部分はダッシュポードなども含めてすべてボディ塗装色の鉄板である。この、室内にボディ塗装色の鉄板の部分があるというのは、この時代のこのクラスの車の特徴なのでぜひ表現してやろう。
 キットは最近のこのシリーズの仕様と同様に、ゼンマイレスのディスプレイ・キットである。それぱかりかこのキットになって初めて、車体のオナカの部分まで別パーツを使い立体感を出している。リアのリーフスプリング、デフやハーフシャフト、そしてこの車の特徴のひとつである、排気効率の良い独立型のエクゾースト・マニフォールド(俗にいう"タコ足")などが立体的にういた形で組み上がる。


 思い起こせぱ、最初は手巻きゼンマイ、次に外観を大切にしたプルバックゼンマイ、そしてついにゼンマイレスのディスプレイモデルと進化してきた事に、エルエスのこのシリーズに対する自信を見るような気がする。次回作はオート三輪2種という事で、ますます期待が高まるシソーズである。
 まだまだこれから発売してほしい車種はいくらでもある。T360が出たのなら、ライフ、ステップバンもほしいし、その他の軽としては、スズキ・フロンテ、スバルR2などは新しすぎるだろうか。普通車ならニッサン車がまるで出てないので、ブルーバードの「柿の種」やピニンファリーナの410、プリンスなら初代グロリア。エポックメーキングな車として初代カローラも忘れられない。いすずのヒルマンは、実にこのシリーズ向けと思うし、マイナーなところで、端正な形のダイハツ・ベルリーナ、コンパーノ・スバイダーなどどうだろう。
 ぜひぜひ、いつまでも続けてほしいシリーズだ。


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