モデルアート 1987年9月号
無限モデル 1/35 陸上自衛隊 一式浮上偵察機(東風8型)


製作依頼の中ではこれが一番気軽に楽しめた。
鳥山明氏がデザインした東風8型という架空のものをキット化したものだが、あたかも実在する自衛隊の車両のようにでっちあげて記事を書いた。実機写真(?)は自分で撮影した。完成したものを写真に撮りプリントし、そのプリントをさらにやや離れてまた写真に撮り、わざと粒子を荒らしてそれらしくしたものだ。
編集部がワルノリしてつけた写真説明も面白い。掲載後、編集部に「あれは本当に存在するのか」という問い合わせがあったそうだ。


無限モデル 1/35
陸上自衛隊 一式浮上偵察機
(東風8型)
おお、これは!?

 編集長の山下氏から電話をいただいたのは薫風香る5月の中旬であった。
 「河合さん、あのね、変なものがあるんですけどね、無限モデルっていうところのキャスト製品で、例の鳥山明さんがデザインしたらしいんだけど……どう言ったらいいのかな……出来はものすごくいいんですよ。」電話ではうまく説明できないらしい。「う一ん、まあ『のりもの』ですね。」と言う。
 のりものったってなあ、プラモやガレージモデルはだいたいのりものだもんなあ。それに「変なもの」は私にやらせればいいという腹らしい。
 どんなものかもわからずひき受けてしまった私は山下氏の持参した現物を見ておどろいた。写真を見ていただければわかる方も多いと思うが、変なものどころか、なんとこれは一式浮上偵察機である。
 以前からうわさになっていた陸自の反重力エンジン搭載機であるが、性能、装備はもちろん、外形、製造メーカーさえも公表されていない。私たちが知ることができるのは、何枚かの、あまり鮮明でない写真のみであった。
 しかし、今年に入ってから、千葉県習志野の第一空挺団に、少くとも5機程度の一式浮偵が配備され、落下傘降下地点の偵察を任務とした飛行訓練が、現在盛んに行なわれているので、ごらんになった方も多いと思う。
 無限モデルが、一式浮上偵察機といわず、鳥山明氏のデザインとして箱絵に動物などのクルーを乗せ「東風8型」という架空のものとしているのは、公表がされていない兵器に対する、一応の配慮からなのだろうか。
実機写真。かなり荒れている写真だが、それでもスタイルや細部が分かる貴重なものである。撮影したのは習志野市在住の山野竹男さん(34才無職)で、近所の女子校の写真を撮ろうと自宅の物干しにいたところ、偶然にも目撃したものだ。

キットについて

 モデルについて書くと、これはいままでのガレージ・キットの常識をくつがえすに充分な好キットである。
 9点のキャスト・パーツと、13点のメタル・パーツ、それに透明塩ビ製のキャノピーが、鳥山明氏の手になる組み立て説明書と共にセットされている。
 バリのほとんどないキャスト・パーツは、細部の彫刻も出色の出来であるし、それに加えてメタル・パーツのすばらしさは感動的である。実をいうと筆者は、キャストモデルの製作は初体験で、多少不安であったが、組み立ては非常に楽で、組み立てるというより、一体の無垢のボディに、付属品を取り付けるだけと言ったほうが正しい。もしストレートに組み立て塗装を行うのなら、数時間あればできるだろう。  感心したのはキャノピーの取り付け方法で、ボディとメーターパネルの間に塩ビ製のキャノピーをはさみこむようになっている。これなら誰にでも、うすい透明パーツを確実に、しかもよごさずに取り付けることができる。
 プロポーションはというと、一式浮偵の特徴をとてもよくつかんでいて、まるでポルシェ356を想わせるような微妙な曲面をうまく表現している。わずかに機首が短い印象もうけるが、気にするほどのことでもない。
ポルシェ356風のボディラインを見事なまでにモデル化している。いくつかのディテールは航空ファン'86年11月号を参考に追加。
ボーズのスピーカーがお分かり頂けるだろうか?自衛隊としても若い隊員を獲得するためにいろいろ細かなところにも気を配っているわけだ。
機銃、人形は他よりトレードしたもの。リアフード下のリアクターは再現されていない。

細部も見事なできだ

 モデルは配備中の量産型を再現しており、試作型との主な相違点である推進用エンジンの換装のためと思われる胴体後部の延長や、方向制御ノズルの形状の違いも正確に表現されている。
 また、夜間明視装置が、試作型では赤外線照射式であったのに対し、量産型ではレーダーに発見されにくい光量増幅型に変更された点まで表現されているのは、心にくいばかりである。
 作例では、主に胴体下面に、実機の写真を見ながら、小部品の追加やパイピングなどのディティールアップをほどこした。
 その他、キットにはフィギュアと後方機銃がセットされていないのでそれも追加している。
推進用ロケットは日産製といわれている。最大速度は870・/h、航続距離は1200・ぐらいだろうか。
下面の日立製反重力エンジンには上の写真などをもとにかなり手を加えてみた。この反重力エンジン、一説によると今年のル・マンでデビューしたアルファロメオスピナーLMのエンジンと同重量ながら出力は1.35倍あり、IHI製重力ターボをツインで装備している。また、機動性能も恐ろしく高いということだ。それにしても資料不足の本機をよくここまでキット化したものだ。また、本機には作例のグリーン以外にグレイ系の塗装もあるようだ。

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